- 2024年12月24日
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「今朝、もしくは記憶に新しい出来事の中で、『えー?』と思った子どもの言動、思いだしてみてください」
ファシリテーターからの問いかけに、参加者10名はそれぞれ思いを巡らせました。
多くの方が、今朝の出来事を思い浮かべました。毎日のように、「えー?」って思うことってあるんだなぁ!と改めて発見。
2人ずつのペアになり、自分(母親)と子どもになります。はじめに、自分は自分役を、ペアの相手の方に子ども役をやってもらいます。
丁寧に、ありのまま、今朝起きたことを再現します。再現と言っても、一瞬の場面です。一番、「えー?」と思った瞬間を切り取り、写真のように静止画で形作ってみます。
Aさんは、今朝、学校にいく間際の子どもとのやり取りを一枚の写真のように再現しました。
リビングでしょうか?Aさん(母親)は、立って子どもを見ています。Aさんから4~5m離れたところにいる子どもは、床に這いつくばって何かを探しているようです。
「この一瞬の場面を見て、感じたことはありますか?」
ファシリテーターからの問いかけに
「子どもは必死に何かを探している?」「焦って必死な様子がわかる」
「お母さんは怒っているように見える」「怒りつつも困っている顔にも見える」「あきれている顔」「あきらめている顔?」
など、次々意見がでます。言葉はなく、静止画であっても、多層な状況や感情が読み取れるようです。
次に、Aさんに状況を聞いてみます。
今朝、「絵筆がない」と、焦って家中のあらゆる場所を探しまくる娘さんを見ている場面。
「朝になって探しまくるのはよくある光景」だそうです。洗面所の下など、ありえない場所を探している様子に、呆れる気持ちでお子さんを眺めていたそうです。怒るような声掛けをしそうになるのを我慢し、黙ってみていたAさん。「お兄ちゃんの借りれば?」と声をかけても、「お兄ちゃんのは毛先がぐちゃぐちゃで汚いから絶対いや」と譲らない娘さん。
Aさんは「ここで、声をかけると娘は余計にパニックになり、大変になるので、黙っているのが唯一できることだと思って、言いたい気持ちを我慢して見ていた」とのこと。
再現を見ていた参加者も、うんうんと首を縦に振りながら「あるある」という気持ちを示しています。
そこで、ファシリテーターから、「次はAさんが子どもの立場になってもらえますか?」と提案されます。なるべく、今朝の出来事を「なぞる」ように。母親としての自分の気持ちを棚に上げて(切り離して)、娘さんのからだはどのように動いていたか、目線はどのようになっていたか、みえていた「かたち」に集中して、からだごと娘さんになり代わるように、やってみてもらいます。
娘さんを再現するAさんからは、必死さが伝わってきます。まるで床を拭いているかのように、這いつくばって、高速で手を動かしながら、どんどん場所を移動していきます。焦り混乱する様子、動きの速さから動悸まで伝わってくる感じがします。もはや床の状況が目に入っているのかな?と心配になるくらいです。
娘さんを演じたAさんは、
「本当に一生懸命なんだと思った。実際にやってみて必死な気持ちになった。こんなに一生懸命なら、もうちょっと違う対応をすれば良かったと思った」
やや呆然とした様子で、感じたことを話しました。
でも、下手に声をかけると良くないし。どうしたらよかったんだろう‥‥。そんな沈黙が流れました。
そのとき、再現を見ていた参加者の一人、Bさんは
「この子はとても真面目で一生懸命なのだと思う。自分も出掛けによくものが見つからなくなり、パニックでいろんなところを探してしまうことがあった」と話しました。
そして、「どなたか、Aさん(母親)を演じてみたい方いらっしゃいませんか?」とのファシリテーターの声掛けに、「私、やってみてもいいですか」と、Bさんは控えめな声色で、申し出ました。
そして、再び、全く同じ場面をやってみます。Aさんは引き続き娘さん役を、BさんはAさん役を再現します。
ただ、今回はBさんは、自分なりに「やりたいこと」を思いついたら、やってみて下さいとファシリテーターは伝えました。
再びこの場面をやってみます。
娘役のAさんはさっきと同様に、床を這うようにして絵筆を必死に探しています。母親役のBさんは、これまでの再現と同じ場所から同じ姿勢で娘を見ています。
そのとき、Bさんはためらいがちに、ささやくように娘に話しかけました。
「どこにあるかなぁ」
ささやかな優しい声。娘の様子を伺いながら、少し待って、再びゆっくりと、優しく声をかけました。
「学校行くから大丈夫じゃない?誰かに貸してもらえば」
娘役のAさんの手が、思わず止まりました。一瞬の出来事です。思わず自分の動作がとまったことに驚く様子があり、その場の空気が緩みました。そののちに、また一生懸命探し続けました。
そこで再現は終わりました。見ていた参加者から、しずかな感嘆の声が漏れます。
「Bさんの声掛けは優しかった」と口々にコメントがありました。
Aさんは、娘を演じた体験を振り返ります。
「さっきの場面(母親役のBさんに優しく声をかけられたとき)では頑張ってそのまま反抗し続けてしまったけど(しかし、実際には一回目の再現より躊躇し、穏やかになる瞬間が観られた)、実際には言い返さなくなるかもしれないと思った。あんな風に優しく言われたら。一緒に探してくれよと言う気持ちが伝わってくるから。何も話しかけないことと、全然違うなと感じた。
私の言い方がきついから、子どもも、こういう態度をとっているだけかもしれないと気づいた。
今日帰ってきたら優しい言葉をかけてあげたいと思う」
Bさんは、母親を演じた体験を振り返ります。
「自分もパニックになってしまうことがあった。だから、(もし自分が母親だったら)以前だったら一緒にパニックになってしまったと思う。でも、今のワークでは、もう少し俯瞰して声をかけられたと思う。
やってみて、子ども時代の自分に声をかけてあげるような気持ちになっていた。
……きっと子ども時代の自分がされたかった対応だったんだ、と気づいた」